AGAとは?

AGAとは


男性型脱毛症(だんせいがただつもうしょう、androgenetic alopecia、androgenic alopecia、alopecia androgenitica、AGA)は、思春期以降に発症する進行性の脱毛症のことである。AGAの典型的な経過では脱毛はこめかみの上から始まり、生え際の後退により特徴的な「M字」パターンとなる。また、頭頂部の毛髪は細くなり、薄毛や禿髪となる。(訳注:androgenetic alopecia は字義通りに訳せば「男性ホルモン型脱毛症」となる。「男性型脱毛症」という訳はむしろ male-pattern baldness に近いが、日本での通例としてこの訳を用いた)

女性の場合には「女性男性型脱毛症」(Female AGA, FAGA)と呼ばれる。男性のパターンとは異なり生え際のラインは変わらずに頭頂部・前頭部を中心に頭部全体の毛髪が細くなる。完全な禿髪になることは稀である。

AGAは遺伝的な要素が大きく関わっており、男性ホルモンのジヒドロテストステロン(dihydrotestosterone, DHT)の作用によって引き起こされる。男性ホルモンは胎児期と思春期の男性生殖器の発達に重要であり、また男女ともに毛髪の成長と性欲に重要な働きを持つ。 AGAは、前立腺癌と深く関連している。

脱毛と遺伝子


研究者は両親から受け継いだ種々の遺伝子がAGAに関与していると考えている。男性ホルモン受容体遺伝子(androgen receptor gene, AR gene)の遺伝的多型は脱毛に関連しており、この遺伝子はX染色体上にあるため、母方の祖父や祖母から遺伝する。 また、常染色体の3q26や20p11上にも疾患関連遺伝子の存在が知られているため、父方の脱毛が息子の脱毛に関連することも知られている。

男性ホルモン受容体(androgen receptor, AR)はDHTや他の男性ホルモンに反応する。ARには遺伝的多型があり、毛包での男性ホルモン受容体の感受性が異なる。こうした遺伝的多型が男女のAGAにおける脱毛リスクに関係していると思われる。 AGAの発症には、遺伝と男性ホルモンが関与しており、一般的には家族性に現れる傾向があると見られている。

AGAに関連したホルモンのレベル


男性ホルモンにはテストステロン、ジヒドロテストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、アンドロステロン、アンドロステンジオンなどがある。一般的にAGAを患っている患者は遊離テストステロンが高い。遊離テストステロンとは、5αリダクターゼによってジヒドロテストステロンに変換される前駆体のことである。

5αリダクターゼ(5-alpha-reductase)は遊離テストステロンをDHTへと変換する酵素であり、主に頭皮と前立腺に存在する。遺伝子は解析されている。

5αリダクターゼの活性は頭皮のDHTレベルを決定する要素となる。また、FDAによって脱毛症の治療薬として認可されている5αリダクターゼの阻害薬(フィナステリドのような、主にタイプ2サブタイプを阻害するもの)の使用量を決める目安にもなる。

性ホルモン結合グロブリン(sex hormone binding globulin, SHBG)はテストステロンと結合してその活性を抑え、DHTへの変換を抑制する。DHTレベルが高い人は一般的にSHBGレベルは低い。SHBGはインスリンにより下方制御(downregulate)される。

インスリン様成長因子1(insulin-like growth factor-1, IGF-1)の上昇は頭頂部の脱毛に関連している。

AGAの発症や進行には遺伝的な要素が大きく関わっている。30年前の日本における男性型脱毛症の統計おいて、日本人男性の発症頻度は全年齢平均で約 30%と報告されているが、この発症頻度は現在もほぼ同程度である。

適度な有酸素運動の習慣を身に付けることで、DHTのベースラインが大きく上昇する。ただし、マラソンなどの強度の持久力運動(オーバートレーニング)を行った場合、コルチゾールの働きによって、遊離テストステロンのベースラインが下がることが確認されているため、DHTのベースラインも下がると考えられる。コルチゾールとは、ストレスホルモンの一種のことであり、精神的ストレスを受けることでも増加する。 ウエイトトレーニングにより遊離テストステロンレベルが下がったという研究も(少なくとも一つ)存在する。

治療と作用機序


すでに休眠状態になっている毛包から再び毛髪を成長させることよりも、老化による健康な毛髪の脱毛を防ぐことの方が容易である。フィナステリド(プロペシア)やミノキシジルは毛髪の再成長について医学的に効果が証明されている。二重盲検法(ランダム化二重盲験法)を用いた3つの研究では、治療を行なわなかった男性グループでは2年間で72%に生え際の後退が見られたのに対し、プロペシアを用いたグループは17%だった。

将来の治療として「毛髪の培養(hair multiplication)」や「毛髪クローニング」といわれるものがある。これは毛包幹細胞を抽出して実験室で増殖させ頭皮に注入するという方法で、すでにマウスでは成功している。まだ実験段階ではあるが、2015年までには実用化されるのでは、とも言われている。さらなるステップとして、毛包の細胞にシグナルを送って若返らせる、という研究も構想されている。

以下に主要な治療について述べる。同じ化学組成や有効成分を含む安価なジェネリック医薬品にも同様な効果があると思われる。

興味深いことに、しばしばプラセボ(偽薬)でそれなりの効果が現れる。この場合、効果そのものは薬剤を使ったほどにはならないが、「副作用」は薬剤を使った場合と同様に出現する。たとえばフィナステリドでは「薬剤が原因で性生活に何らかの支障を来たした」割合は3.8%だが、プラセボ群でも2.0%に同様の「副作用」があった

脱毛の治療を継続させ成功に導くポイントとして「3つの『P』」があげられる。

  • まず有効な治療から始める(Proven treatment first)
  • 写真を撮る(take Pictures)
  • 根気良く続ける(be Patient)

脱毛の治療は、最低でも平均6か月以上かかる。場合によっては、はっきりした効果が出るまでに2年以上かかることもある。

脱毛の治療に時間がかかるのは毛周期(hair cycle)のためである。毛髪は2-7年の間成長を続け、その後休止状態となって一旦抜けて、数ヵ月後にまた成長し始める。脱毛のプロセスとはこの毛周期のサイクルで何年もかけて毛髪が縮小化していくものであり、新たに成長する毛髪が次第に細く、短く、色が薄くなり、やがて肉眼ではわからなくなっていく。このため、治療の効果がわかるのに年単位の時間が必要となる。

科学的に効果の認められた治療法では、治療初期の段階で休止期の毛髪が一旦抜け落ち、(うまくいけば)新しい毛周期が始まり、より太い毛髪が伸びてくる。この経過がさらに治療効果の判定を難しくしている。治療を中断した場合、毛髪は抜け落ちて治療前の状態に戻るが、より脱毛が進むことはないと思われる。

現在、育毛サロンが多数存在し、派手な宣伝を行っているが、科学的根拠が明らかでないものも多い。独自の理論を展開する企業もあるが、いずれも国際論文や2重盲検比較試験などの結果は公表されておらず、これらの施術やサプリメントに対して高額な値段によって販売、施行されている状況を見過ごすことはできない。一部の育毛サロンでは結局ミノキシジルやフィナステリドを使用しているところもあるとされ、きわめて不誠実である。

AGA遺伝子検査


AGA遺伝子検査は男性ホルモン受容体であるアンドロゲンレセプター(AR)のDNAの塩基配列を調べることによって行われる。DNAの解析は、主に毛髪、爪、頬の粘膜、血液などの検体から、DNAを抽出して検査される。必要量が取れれば、検体の種類による検査結果の正確性に違いはない。主に一部の医療機関で受けることができるほか、自宅で頬の粘膜等を採取し、検査機関に送ることでも調べることができる。

現在日本で行われているAGA遺伝子検査は、主にAR上の「c,a,g」という三つの塩基と「g,g,c」の三つの塩基が繰り返す数、いわゆる「CAGリピート」と「GGCリピート」数の合計を調べる検査である。GAGリピート数+GGCリピート数の基準値を38とし、それより少ない場合は「AGAリスク大」、多い場合は「AGAリスク小」と判定されている。

1998年に報告された、48名の男性と60名の女性を対象にした比較的小規模な試験で、AGA患者でCAGリピート数が少なかったとの報告があったため[13]、日本ではAGAの遺伝子検査と称して、主にCAGリピート数が調べられるようになった。しかし、その後、過去に行われた8つの研究をメタ解析し、2074名のAGA患者と1115名のコントロールを比較した結果、CAGリピート数、GGCリピート数とも、AGAリスクに関しての相関は認められなかった。

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