認知症とは?
認知症とは、一度獲得した脳の機能が様々な原因によって低下する状態の総称になります。
症状は大きく分けて脳の働きが低下したことによる一次的な中核症状と、当事者の低下した認知機能、感覚機能で外界と相対するストレスから二次的に生じる周辺症状に分けられます。
認知症の状態に陥る切っ掛けは数多く存在し、それぞれ異なる疾患名を持ちます。代表的なものとして、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、脳血管性認知症が存在します。
脳血管性認知症以外はそれぞれ病変が脳の特定の部位から始まる傾向があるため、初期は特徴的な症状を示す事が多いのですが、病変が他の部位へと広がるにつれ区別が難しくなり、疾患の種類より現在どの部位に病変が広がっているかが重要になります。
代表的な中核症状には記憶障害、実行機能障害、見当識障害、失行・失認、失語、理解、判断力の障害があり、代表的な周辺症状は心理症状である不安・焦燥、抑うつ・アパシー、幻覚・妄想・錯覚と、行動障害である睡眠障害、拒絶、徘徊、暴言・暴力、過食・異食、不潔行動があります。
西洋医学の視点から
<原因>
アルツハイマー型はβアミロイド、レビー小体型はレビー小体という蛋白質が脳内に蓄積することにより神経細胞のアポトーシス(細胞自死)が引き起こされることによって生じます。
原因となる蛋白質は酸化ストレスや栄養不足、毒性物質などに脳が晒される状態が慢性化する事で産出され、また排出が間に合わなくなり蓄積していきます。
加齢と生活リズムの乱れの相乗効果により体内恒常性(ホメオスタシス)の維持能力がある閾値まで低下することによって起こる生活習慣病としての側面が強いです。
加齢に伴い発症リスクが上がっていくことが特徴です。
前頭側頭型認知症は元々アポトーシス制御遺伝子に欠陥を抱える人が主に酸化ストレスなどが引き金となって後天的にアポトーシスの暴走を引き起こす事で起こります。
遺伝要因と環境要因の複合で、アルツハイマー型、レビー小体型より低年齢でも発症する事が特徴です。
脳血管性認知症は脳梗塞などにより虚血状態に陥った脳細胞がその後アポトーシスを引き起こす事で生じます。
この時脳内の亜鉛などの神経毒性物質やカルノシンなどの神経保護物質の濃度が虚血状態からアポトーシスに至らず神経細胞が復活出来るかに大きく関わること、引き金となる脳血管疾患と生活習慣との関係から、解毒能力や食生活が予後を決める生活習慣病としての側面が強くなります。このように切っ掛けは異なれど、いずれのタイプもホメオスタシスが失われる事でアポトーシスが作動して自滅へと向かう、という大まかな流れは変わりません。
認知症は本来働くはずのアポトーシスを逃れ細胞が増え続けてしまう癌と対を成す現代病と言えます。
周辺症状は中核症状によって場面に応じた適切な記憶を呼び出せなかったり、周囲の状況を把握出来なかったり、他には外部から分かりにくい症状として感覚認知の障害など、ストレスフルな状況に置かれた当事者がホメオスタシスが元々維持しにくい事も手伝って脳内神経伝達物質、例としてはセロトニン-ドーパミン間の均衡が崩れ、環境に対して極端な応答をすることで生じます。
<西洋医学的治療>
中核症状に関しては長らく根治は難しいとされ、対症療法として薬剤を投与して脳機能の低下を思考に必要な神経伝達物質アセチルコリンを増やすことで緩和したり、アポトーシスの進行を誘発するグルタミン酸の濃度を下げて緩徐にしたりといった対症療法が一般的でしたが、元々ホメオスタシスが低下している当事者は薬剤過敏性を持ち、副作用も強く出るため身体への負担も大きくなります。
近年はメカニズムが解明されるにつれ、身体への負担がより少ないホメオスタシスの維持、回復に着目した新たな治療法が提唱されつつあります。
例として解毒能力の指標となる抗酸化物質グルタチオンを点滴により補い副作用を軽減した上で薬剤と併用するコウノメソッドや、個人に合わせた生活習慣改善プランによりホメオスタシス全体を向上、毒性物質を除去するリコード法などがあります。
抗酸化物質は経口では吸収される前に分解されてしまう為、サプリメントとしては肝臓でのグルタチオンの産生を間接的に増加させるスルフォラファンという物質が着目されています。
周辺症状に対してはまず第一に当事者の中核症状と照らし合わせてストレッサーとなっている物を遠ざける環境調整が重要になってきます。
睡眠薬、向精神薬など薬剤も用いますが、やはり副作用が強く出やすい為解毒能力の強化との併用など慎重を期して行う必要があります。
<予防>
酸化ストレス、栄養不足、神経毒性物質、この3つを遠ざけるには、規則正しい生活周期、食生活によりホメオスタシスを高く維持する事が重要になってきます。
特に生活のリズムが重要ということは現場ではメカニズムが明らかになる以前から経験則により知られていました。
東洋医学の視点から
<原因>
まず東洋医学では西洋医学の内臓に相当する肝、心、脾、肺、腎などの働きが相互に干渉し合い、体内環境を一定に保っているとされます。
これらは厳密には内臓のようなはっきりとした実体のある存在ではなくそれぞれの役割を持った機能群になります。
これら機能群の互いの連絡や全身の栄養、体温の維持、外敵からの防衛などを目的として全身を巡っているとされるのが気であり、24時間で全身を1周しているとされます。
気が滞りなく流れている状態とは全身の機能が互いに連絡し合う、所謂体内時計の同期が取れた状態と仮定出来、その状態を正気と呼び、ホメオスタシスが最大となります。
逆に気の流れが滞った=体内時計の同期が取れなくなった状態は抵抗力が弱りいつ病になってもおかしくない状態、未病と呼ばれます。
東洋医学には認知症に対応するカテゴリー分けが無いため、健忘という症状が中核症状に対応すると仮定します。
健忘は大きく分けて腎精の不足によって生じます。
まず腎は飲食物から得られた水穀の精を腎精として貯蔵します。腎精は気や精神活動を支える血、水分や冷却作用である津液などへと分化します。
脳は髄海とも呼ばれ、腎精が海のように満たされ智力の源となっているとされます。
腎精が分化した気血津液が全身滞りなく流れている状態が正気、つまりホメオスタシスの維持に重要とされ、腎は全身、特に脳のホメオスタシスの起点になる機能ということになります。
近年、腎臓は血液を濾過し尿を作る過程で全身の臓器や器官が血中に放出するメッセージ物質を検出して全身の状態を把握し、指令となるメッセージ物質を血中に放出することで、全身の情報ネットワークを仲介するホメオスタシスの司令塔としての役割を担っていることが分かりました。
腎臓の機能不全はそのまま多臓器不全によるホメオスタシスの崩壊へと繋がり、その急激な影響を真っ先に受けるのが脳であることから生命維持と直結します。
ホメオスタシスが崩壊した腎不全の状態では、僅かな時間の心停止による虚血状態でも脳細胞のアポトーシスに直結し、死亡や脳死、後遺症のリスクが極めて高くなることが知られています。
長らく腎は対応する臓器との機能の齟齬が最も大きいとされてきましたが、最新の研究で漸く腎臓の隠された本来の機能をも経験則から正確に予測していた先人の智慧が証明された形となりました。
腎精の不足は材料である水穀の精を生み出す消化吸収を司る脾の働きの低下によっても生じます。
脾の働きの低下は消化吸収系への負担の他に慢性的な精神ストレスによっても生じます。
心腎不交は精液の消耗や大便失禁、早産、中絶、疲労などにより腎精より生じる腎陰が消耗したことで心の生体活動を促進する機能の心火との拮抗が崩れ、さらに腎陰の消耗が加速することで脳が腎精不足となり生じます。
このように大きなホメオスタシスの乱れも起点は局所での陰陽の乱れの場合があります。
陰陽はある2つの要素を比較した時必ず両者の間で相対的に動的作用と静的作用の拮抗が生じているという概念です、陰陽の乱れは両者の均衡が崩れ、非対称性が生じた状態です。
<東洋医学的治療>
腎精不足の起点となる陰陽の乱れが外部環境からの刺激によるものである場合はそれによって亢進した機能を抑制したり(瀉法)、拮抗する機能を補って(補法)平衡状態を取り戻します。
機能の低下が起点の場合は補法をもちいます。
手法としては灸や鍼による経絡への刺激や漢方薬を用います。
周辺症状のうち、行動障害に関しては肝気の亢進という状態と解釈出来、漢方の抑肝散が有効です。
<予防>
東洋医学の言う未病を防ぎ正気を保ちます。
気の流れの運行は24時間周期である為、毎日の規則正しい生活リズムにより定期的に、特に作用が拮抗し合う機能同士の体内時計のリセット、同期を図り、相関する陰陽のピークのズレが蓄積しないようにしましょう。
まとめ
古来より膨大な経験則の蓄積により知られてきた「当たり前」を守ることがそのまま認知症の予防、治療に役立ちます。今一度、生活習慣を見直してみましょう。