ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)とは?
ゴルフスイングをした時、肘関節の内側の骨の出っぱりあたりを押す、肘を曲げたり伸ばしたり、ひねったりする、腕を引っ張った時、引っ張られた時、クラブを強く握った時、雑巾をしぼった時など、肘関節、手関節、指関節に力を入れた時に連動して痛むことが多いです。
西洋医学の視点から
〈原因〉
ゴルフスイングの動作、スイングフォームによる特徴的なスポーツ障害で、インパクトからフォロースルー時の肘の角度、手首の角度、腰の回転の不具合やそのオーバーユース、繰り返しの動作による肘の内側の上腕骨内側上顆と言われる部位の腱の滑膜の炎症が原因です。
腱には関節を動かす時に、筋肉の収縮具合を反射的に脊髄、脳に伝える機能があり、腱は筋肉のようにトレーニングによって鍛える事ができない為、年相応に老化の影響を受けやすくゴルフ肘の原因をつくります。
ゴルフ競技特性の観点から、首の捻り方、クラブの握り方、肩甲骨の可動範囲、肩関節の可動域、足の重心の掛け方、肘の使い方により上腕や手首、指の筋肉へ疲労が溜まりゴルフ肘の原因が作られます。
また、ゴルフスイングの手首の使い方によっては、肘の外側にも痛みが出ることがあり、尺側手根伸筋や橈側手根伸筋がゴルフ肘の原因になる場合もあります。
最近では子どものゴルフ競技人口も増えており、子どもの場合、関節が柔らかく肘関節の可動性がある為、カーブやシュートなどの変化球による手首の捻りが肘関節に重い負担をかけてしまい肘の軟骨同士がぶつかり合う事で離断性骨軟骨炎が発症する可能性があります。
〈西洋医学的治療〉
MRI、レントゲン、CTによる画像診断。
湿布による痛みの緩和。消炎鎮痛剤の内服。
強い炎症症状がある場合はステロイドの注射、局所麻酔薬。
早期復帰が望まれるプロゴルファー選手、昇格やタイトルの掛かった大切な試合のあるトップアスリート、ゴルフの愛好家の方は、PRP療法(自己多血小板血漿注入療法)という選択肢もある。
〈予防〉
●肘サポーター
肘全体を圧迫するタイプは異常な毛細血管の血流を抑え保温させる事で痛みを緩和させる。
ベルトタイプの肘サポーターは、前腕屈筋群を圧迫する事で上腕骨内側上顆にかかる負担を分散させ、痛みを緩和させる。
●テーピング
エックスサポート、フィギュアエイト、スパイラルテープを腕の太さに合わせて上腕骨内側上顆を中心に行い、筋活動の抑制、肘関節の可動域を制限する事で日常生活、ゴルフ中の負荷を軽減する。
東洋医学の視点から
〈原因〉
経絡の観点から『小腸経』『心経』の流れの滞りや、栄養不足、エネルギー不足が原因で、前腕手根屈筋群の起始部の瘀血、血虚、気虚、気鬱、水滞、癥が起こる。
〈東洋医学的治療〉
鍼灸、あん摩、マッサージ、指圧によるアプローチで『小腸経』『心経』の経絡のツボを使い気血の流れを調節し、筋緊張を緩める。
『少海-合水穴-』
心経の気血の多く集まるところであり、肘の痛み、圧痛の出現しやすいツボ。頭痛、歯痛や冷え性、目の充血がともなう場合も効果あり。
『支正-絡穴-』
疾病の反応が良く現れるツボで腑病、慢性疾患に効果があるとされる。尺骨内縁と尺側手根屈筋の間にあり、支正穴から小海穴にかけて索状の筋緊張、圧痛点を触知する事がある。それは尺側手根伸筋上にも現れる事がある。瘀血症を診る部位の一つ。
『小海-合土穴-』
小腸経の気血の合流するところ。上腕骨内側上顆と肘頭の間の陥凹部にあり、尺側手根屈筋の停止部である為、刺激を加える事により筋緊張を緩和させ圧痛、炎症を改善する効果が期待できる。
漢方薬
桂枝茯苓丸、烏薬順気散の成分が気血の乱れ、瘀血症、気鬱を晴らす効果があるという報告がある。
〈予防〉
ゴルフの前後に炎症の度合いを把握した上でアイシング、RICE処置、適切なストレッチを必ず行い、肩関節、肩甲骨、上腕、前腕、指の筋肉を柔らかく保ち疲労を軽減させる事がゴルフ肘発症のリスクを下げる。
日常生活では、肘を伸ばしたままの作業をなるべく避け、重量物は片手で持つ事は避け、両手で持つようにする。
主なストレッチ
①手のひらを上にして肘を真っ直ぐ伸ばす。
②反対の手で揃えた5本の指を掴み、指先を地面に垂直になるようゆっくり手首を反らしていき、ほんの少し痛みを感じるくらいで止める。
③ストレッチの持続時間については20秒から60秒の間で筋肉が柔らかくなったという研究論文があり、一般的には20秒~30秒を目安に行うと良い。
④ ②の状態から時計回り、反時計回りに指先の方向を変える事でより原因となる筋繊維に効果的にストレッチを施せる。
まとめ
痛みの局所の原因だけではなく、肘に影響を与える部位を含め、西洋医学的観点と東洋医学的観点から症状の全体像を診ることで、急性のゴルフ肘、慢性のゴルフ肘の両方に対して、目標や目的、ライフスタイルに応じた適切な治療の選択肢があると言える。